研究概要 |
本年度は蘇類のナンジャモンジャゴケ属とミズゴケ属,タイ類ではトロイブゴケ属,コマチゴケ属を野外調査により確保した.これを用いて,蘇類でもっとも早い進化段階で分岐したとされるナンジャモンジャゴケとミズゴケについて,集中的に分子系統解析を進めた.まず,ナンジャモンジャゴケの葉緑体ゲノムを全塩基決定に挑んだ.葉緑体ゲノムの抽出(ガラスウールを用いた手法)し,LA-PCRで得られた平均断片長約10kbのPCR産物で葉緑体ゲノムの全周を網羅した.産物を精製した後,ショットガン法により,葉緑体ゲノムのほぼ全周の塩基配列を決定した.現在,コンティグ間のシーケンスしきれなかった部分をプライマーウォーキング法でシーケンスしている.この過程で,cysA,cysT,ccsAという3つの遺伝子の存在を蘇類の葉緑体ゲノム中にはじめて確認することができた.併せてミズゴケでも同様の探索を進めていて,データベース上の既知の塩基配列を基に,10~15kb程度のPCR産物を得るためのプライマーを設計し,複数の組み合わせでLA-PCRを行った.しかし,増幅が見られなかったり,または目的長以外の増幅がみられるなど,目的のPCR産物を得ることにまだ至っていない.そのため,現在は新たに縮重プライマーの作成やPCR条件について試行錯誤を行っている.現在5種のコケ植物(ゼニゴケ,ホウライツノゴケ,ヒメツリガネゴケ,ミドリゼニゴケ)の葉緑体ゲノムが決まっており,その構造を比較し,分子系統解析と併用することで,さらに詳細な系統関係を調べることができる.組織学的研究としては,トロイブゴケ属の胞子体を確保し,固定・包埋段階まで進めている.
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