研究概要 |
(1)蘚類の主要分類群の系統関係解明のためにナンジャモンジャゴケ類,ミズゴケ類,クロゴケ類の葉緑体ゲノムの全塩基配列の解析を行った.これらの分類群では葉緑体ゲノム中にマゴケ類に未知の遺伝子が存在した。葉緑体ゲノム中のrpoA,cysA,cysT,ccsAは,これまで苔類ゼニゴケやツノゴケ類ホウライツノゴケの葉緑体ゲノムでは存在が確認されているが,蘚類ヒメツリガネゴケの葉緑体ゲノムには存在しない.これらの遺伝子の存否が,蘚類の系統関係を考える上で新たな指標と考えた.(2)蘚類ホソバミズゴケの原糸体が,糸状と葉状の体制を繰り返し出現させて成長することを明らかにした.他の蘚類と同様,糸状原糸体には表層微小管系が見られなかったが,葉状原糸体では存在することを確認した.コケ植物の苔類の中で最も初期に分岐したとされているコマチゴケの塊状原糸体で,蘚類の糸状原糸体とは異なり表層微小管,分裂準備帯が存在することを明らかにした.これらの表層微小管系は陸上植物の主要な系列が分岐する前に獲得されたことが示唆された.(3)分類学的位置づけが明確でない,苔類ヌエゴケ属について,形態学的研究と分子系統学的研究を行い,これまで未知であった造精器をもつ雄花序の形態を報告した.葉緑体のrbcL遺伝子,核のrps4遺伝子を用いた系統解析で,ヌエゴケ属は茎葉性苔類のツキヌキゴケ科のクレードに含まれた.ヌエゴケ属が,茎葉性苔類に含まれることは,これまで指摘されたことがない意外な結果であるが,ツキヌキゴケ科とヌエゴケ属には生殖器官,油体,細胞表面のベルカなどに共有派生形質があることを指摘し,ヌエゴケ属をツキヌキゴケ科に含めることを提案した.
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