本年度は、オオジシバリ(キク科)倍数性複合体について倍数体と祖先的二倍体間の組織形態学的比較、ならびに、光合成特性の比較をおこなった。これにより、琉球列島産オオジシバリは九州以北産オオジシバリと比べて柵状組織の細胞層数が多く、葉全体が厚くなっていることが明らかとなった。強光条件下での光合成特性を比較したところ、九州以北産オオジシバリの方が強光阻害を受けやすいことが明らかとなった。琉球列島産オオジシバリは柵状組織を多細胞層にして葉を厚くすることで、強光耐性を高めている可能性が示唆される。また、琉球列島産オオジシバリの地下茎は髄柔組織が発達し、直径がより太くなっていることが明らかとなった。髄柔組織は貯水器官としての機能を持つと考えられ、乾燥が著しい海浜環境にたいする適応的な形質であると考えられる。ヤブラン(スズラン科)については詳細な細胞地理学的調査によって倍数体の地理的分布パターンを明らかにするとともに、葉緑体DNAのハプロタイプ解析をおこなった。その結果、ヤブランでは倍数化が多所的に複数回生じている可能性が示唆された。これ以外に、琉球・台湾地域に固有のオキナワイボタ(モクセイ科)について、西表島を含む広範囲から採集したサンプルを用いて染色体数を初めて報告するとともに、同属のネズミモチについては従来報告されていた染色体数が誤りである可能性を指摘した。また、琉球列島固有分類群であるヒメスイカズラ(スイカズラ科)が四倍体であることを明らかにし、固有分類群形成の過程で倍数化が重要な役割を果たしている可能性を示唆した。さらに、沖縄島固有種リュウキュウコンテリギの四倍体について新たな産地を発見するとともに、分子系統学的解析により本種四倍体が複倍数体起源である可能性を示唆した。
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