研究概要 |
本研究は,南西諸島におけるカンアオイ属(ウマノスズクサ科)植物の種多様性の実態とその分化の道筋を形態比較ならびに分子レベルからの比較に基づいて明らかにすることを目的とするものである.今年度は,特に奄美群島域(奄美大島本島とその属島)に分布するカンアオイ類に着目し,サンプル試料の収集や分布域の把握,そして形態比較からの調査を進めてきた. その結果次のようなことが明らかになってきた.1)奄美群島域のカンアオイ属植物は葉のサイズや光沢に着目すると,大きく2つのグループに分けられる.2)大型で光沢の強い葉をもつオオバカンアオイとフジノカンアオイは奄美大島に広く分布(前者は徳之島北部にも離れて一部分布する)し,互いに同所的あるいは近接した地域に出現することが多い.3)これに対して小型で光沢のない葉をもつカンアオイ類(既知の7種)は互いに異所的に出現する場合が多く,形態的にも雄蕊数や雌蕊数の退化,そして花筒形態に特異な分化を示していた.4)奄美大島本島の中部名瀬周辺において既存の分類群からは区別される小型の葉をもつ新たな分類群の存在が明らかになった.5)小型の種と大型の種とは,様々な組み合わせで同所的に出現していた. これらの事実から,奄美群島域における同植物の分化について,少なくとも2回以上の系統の異なるカンアオイ類の進入があり,小型種は同島域で異所的に分化した可能性のあることが示唆された.また,形態的には雄蕊数や雌蕊数の減少が複数の種で並行的に起こっている可能性も示唆された.これらについては今後の研究でさらに確かなものにしていきたい.
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