研究概要 |
本研究は,南西諸島におけるウマノスズクサ科カンアオイ属植物の種多様性の実態とその分化を形態比較から,そして分子レベルの比較から解明することを目的とするものである.今年度は昨年度に引く続き特に分化の著しい奄美群島域カンアオイ属植物に的を絞って進めてきた. 昨年度までの調査で,奄美大島中部の低山帯には未知のカンアオイ(新分類群と見なしうる個体群)が確認されたが,それが近縁種とどのような関係にあり,そして地理的分布域において島内でどのような分布域を占めているのか不明であった,今回の調査で,この未知のカンアオイは,形態的特徴において湯湾岳や金作原に生育するミヤビカンアオイに最も近縁であるが,花筒サイズや花筒舷部には固有の特徴がみられ,また分布域においても奄美大島中部の朝戸川流域のみに限定されることが確認された.ミヤビカンアオイとの近縁性は核ITS領域の解析でははっきりとした結果は得られなかった.これは他種についても同様であるため,より分子進化速度の速い領域の解析が必要と考えている. カンアオイ属の分化を探るうえで,染色体数や核型の特徴も重要であるため,すでに採集していた奄美群島域固有のカンアオイ類について,その染色体数や核型の解析も並行して進めた。その結果,染色体数はいずれも2n=24で,個体サイズに対応するような倍数性は確認できなかった.また核型においてもいずれも類似した特徴を示すものであった.このことは,他種で確認されるような核型レベルでの分化が生じていないことを意味し,島内での分化が別の要因で進んできた可能性を示唆する.
|