研究概要 |
日本列島はアジア大陸に近接しているため、氷河期における海水面の上下変動によってしばしば大陸との接続と分離を繰り返してきた。大陸との接続時には多くの動物が侵入し、その後再び島が成立すると、それらは孤立個体群となって特有の進化をとげてきたものと考えられている。しかし、大陸との接続と分離の過程において、亜種レベルに分化した集団が再侵入し、二つの集団が再会合することにより、新たな遺伝的集団を形成することについては着目されていなかった。1)これまで日本の32ヶ所から597頭のニホンジカのサンプルを入手し、その染色体を分析し、4つの地理的変異があることを明らかにした。2)北グループ:2n=68,FN=68で、1対の中型メタセントリック染色体を持つ個体が見られる地域。北海道から奈良県まで11ヶ所251個体を分析した。3)中国グループ:2n=66,FN=68で、1対の中型メタセントリク染色体および1対大型メタセントリック染色体ある染色体を持つ個体が見られる地域。島根県出雲、平田、広島県安芸高田である。4)九州グループ:2n=64,FN=68の染色体を持つ個体が見られる地域である。九州グループは熊本県人吉および鹿児島県栗野である。5)五島列島グループ:2n=64,FN=68あるが、九州グループが持つ染色体とは異なったものが融合した染色体を持つ地域。6)交雑帯:上記4グループのそれぞれの境界帯では両グループおよび交雑染色体を持つ個体が観察された。今後、更に調査を進め、遺伝的に分化した集団が再会合した場合の生物学的影響について研究を進めたい。
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