亜種レベルに分化した集団の再会合は遺伝的な不安定化が起こり、これにより染色体の変異が起こることをニホンジカにおいて発見した。この仮説を確立するために、分析を更に進めた。 平成19年度および20年度の調査で日本列島に生息するニホンジカには北タイプ(2n=68)、中国タイプ(2n=66)、九州タイプ(2n=64)および五島列島タイプ(九州タイプと異なる2n=64)の4タイプの染色体変異がありまた、それぞれの集団の境界において交雑がみられることを明らかにしてきた。 平成21年度は長崎県五島市14頭、淡路島36頭、兵庫県豊岡市24頭、奈良県16頭、岐阜県養老町19頭および長野県辰野38頭の個体を分析することができた。この分析において、五島列島のものは独自の分化をとげた集団であることが明らかとした。豊岡のものは先に分析した兵庫県神崎町のものと同様の混成群であることが明らかとなった。また、淡路島の個体はすべて2n=68であった。徳島県、兵庫県および大阪府に生息する個体群は北タイプと中国タイプの交雑群であるが、淡路島のものは北タイプであり、中国タイプが侵入していないことが明らかとなった。このことは淡路島が早くから本州と隔離し、四国への動物の通路になっていないことを示している。奈良県(合計91頭)、岐阜県養老町(19頭)および長野県辰野周辺(35頭)の個体群はすべて北タイプであることが明らかとなった。この3年間に日本において36地点771個体のニホンジカの染色体を分析することができた。これにより遺伝的に分化した集団の再会合が新たな染色体変異を持つ集団を作ることを明らかにした。
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