研究概要 |
本年度は、染色体やDNA解析が終了していないスゲ属植物40種を研究分担者の協力を得て日本各地から採集し、体細胞分裂中期染色体の分析および葉緑体trnT-L-F領域の解析を行なった。現在までに、スゲ属植物120種のtrnT-L-F領域を解析した。今まで報告されている核リボソーム遺伝子ITS、ETS 1fをあわせて分子系統学的研究を行った。 その結果、スゲ連の5属(Carex,Cymophyllus,Kobresia,Schoenoxiphium,Uncinia)は単系統となり、その中に次の4つのクレードが認められた。1)スゲ亜属タガネソウ節:小穂は複数で有柄、葉幅が広く、染色体数が2n=12とスゲ属内で最も少ない。2)原始スゲ亜属:小穂は1個。3)マスクサ亜属:小穂は複数でほとんどが無柄、花序は穂状、前葉はない。4)スゲ亜属とハナビスゲ亜属:小穂は複数でほとんどが有柄、花序は総状または円錐状。近縁3属(Kobresia,Schoenoxiphium,Uncinia)は、原始スゲ亜属と同一クレードに含まれ入れ子状になっておりKukenthalの見解は支持されなかった。さらに、タガネソウ節がスゲ連の基部で独立したクレードを形成することが明らかになった。国外の種を加えた400種の核リボソームおよび葉緑体遺伝子trnL,trnL-Fの非コード領域を用いた解析でも同様な結果が得られていることから、タガネソウ節は亜属レベルの分類群として区別できると考えられ、亜属の再検討が必要である。また、日本産スゲ属の節の分類と系統樹の比較では、ヒエスゲ節のように単系統を示すものや数個の節がまとまって1つのクレードに含まれるものが多かった。従って、節の分類に関しても分子系統を参考にして組み直す必要があると考えられる。
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