雪腐病菌は、積雪環境下で越冬性作物に対して病原性を示す糸状菌の総称である。これら雪腐病菌は、積雪環境への適応性の差から好冷菌(20℃以上では増殖不可能)と耐冷菌(20℃以上でも増殖可能)に大別される。本研究の研究対象である低温性担子菌イシカリガマノホタケは、植物病原菌であるため病徴を生じ、さらに菌核とよばれる直径数mmの「きのこの種」を形成することから、採集地での個体識別が可能である。また、担子胞子が短命であるため風媒等によって分散することが無く、主に菌糸の栄養増殖によって、その分布を拡大しているとされる。このため一般の微生物とは異なり、遺伝的多型が多く存在し、生息地に適応した亜種を生じ易いとされる。 上述のように本菌の分布拡大は、菌糸伸長に依存していることを考慮すると「遺伝子解析と生息地(菌株の採取場所の)地史情報を合わせる」これまでにない方法の導入によって、分子進化時計の設定が可能となると期待できる。この分子進化時計を北半球全域のカルチャーコレクションへ適用し、「環境適応能」と比較することによって、本菌が「いつ」、「どこで」、「どのような要因」によって分化が始まったのか、これまでに微生物では解析が行われたことのない微生物の種分化に関する貢献を目指す。これは一微生物種に限らず多くの生物種に適応可能な生物学の基盤的成果を提供できると考える。
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