薬物代謝酵素の一つである硫酸転移酵素(SULT)は、様々な外来性異物に対応し代謝するために、広い基質特異性をもっている。現在までの蛋白質の構造研究において、特異性の高い物質認識に関する研究は広く行われてきているが、広範囲の物質を認識する立体構造の機構に関する知見は非常に乏しい。そこでマウス由来硫酸転移酵素mSULTID1のX線結晶構造解析を行い、mSULT1D1と様々な基質との複合体構造を得て、SULTの広い基質特異性決定メカニズムを明らかにすることを目的としている。これらの研究成果から、一般的な薬物代謝酵素の広い基質特異性決定メカニズムを導きだすことを目的に研究を行った。目指す。 本年度は、2種類の基質と複合体の立体構造を決定した。複合体の結晶の作成は、PAPとの複合体で作成した結晶を、クライオ条件下の高濃度基質溶液に浸し、-180℃窒素ガス冷気によるフラッシュクールすることにより作成した。X線回折実験は、シンクロトロンSPring-8およびPFを用いて行い、2オングストロームを超える高分解能のデータを収集することができた。基質に対応する明瞭電子密度を観測することができた。なれらの構造を、すでに立体構造を決定していた基質が結合していない時の構造と比較すると、構造全体にはほとんど変化がないにもかかわらず、基質を認識している複数の側鎖の向きが、結合する基質に対して適切な位置に構造変化していることがわかった。このことは、mSULT1D1が、広い基質特異性をもつ一つの要因であると考察できた。
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