ピロロキノリンキノン(PQQ)を補欠分子族とするキノプロテイン脱水素酵素には、可溶性のものとペリプラズム側から細胞質膜に結合するものとがある。後者にあたる酢酸菌由来の膜結合型キノプロテイン・アルコール脱水素酵素(ADH)はエタノール酸化を膜結合呼吸鎖とリンクしており、バルクのUQへと電子を受け渡し、生じたUQH2が末端オキシダーゼに電子を受け渡すことで酸化系が構築されている。また、このADHには不活性型があり、グルコースや糖アルコールを酸化している培養条件下ではUQへの電子伝達能が低下して、逆にユビキノールの酸化を行う。今回ADHの立体構造をMIR法を用いて決定した。ADHは、3つのサブユニットから構成される。サブユニットAは、他のキノプロテインで見られる8枚羽のβプロペラ構造からなるPQQ結合ドメインとcytochromeドメインが長いリンカーでつながった構造をしていた。膜結合部位と予測されたサブユニットBは3っのcytochromeドメインからなり、膜結合部位と予想される疎水表面が存在していた。サブユニットB表面には2つの大きな窪みが表面に存在しており、それぞれヘム結合位置との対応から、ユビキノンの還元部位とユビキノールの酸化部位と考えられた。サブユニットCはサブユニットAのPQQドメインと相互作用していたが、役割は不明である。分子内で電子伝達に関与しているPQQと4つのヘムの結合箇所を決定し、それぞれの相対分子間距離と既に明らかとなっているそれぞれのレドックスポテンシャルの値から、活性型、不活性型での反応中の分子内電子移動ルートを合理的に説明することができた。同じく酢酸菌のグルコース脱水素酵素については構造決定までには至らなかったが結晶の回折像を得ることができた。
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