研究概要 |
最近、脳内に可逆的な酸素結合が可能な蛋白質「ニューログロビン(Ngb)」が報告された。このNgbを過剰に発現させると脳虚血・再潅流に伴う細胞死が減少し、逆に、Ngbの発現量を低下させると細胞死が増加することから、酸化ストレスに伴う細胞死を抑制する働きがNgbにあることが示唆された。しかし、その神経細胞死の抑制メカニズムはまだ明らかになっていない。我々は、以前、酸化ストレスにより生じる酸化型Ngbがシグナル伝達蛋白質であるヘテロ三量体G蛋白質のαサブユニット(Gα)と特異的に結合し、「GDP/GTP交換反応抑制蛋白質(GDI)」として機能することを明らかにした。また、通常の酸素結合型NgbはGαと結合できないことも明らかにした。今回、我々はNgbのGDI活性の重要性について明らかにするために、Ngb変異体をPC12細胞に導入し、酸化ストレス下での細胞死抑制能について検討した。具体的には、GDI活性を持たないヒトのNgb変異体(E53Q, R97Q, E118Q, E151N)、及び、GDI活性を持つヒトNgb変異体(R47A, K102N, K119N, D149A)を精製し、Chariotを用いてそれぞれ細胞内に導入した。そのうえで、まず低酸素環境(1%O2,94%N2,5%CO2)で24時間、続いて通常酸素濃度環境下で24時間培養して酸化ストレスを誘導し、細胞死の割合を解析した。その結果、GDI活性を持つ変異体は全てヒト野生型Ngbと同様に細胞死を大きく抑制した一方、GDI活性を持たない変異体ではいずれも細胞死抑制の程度が著しく低下することが明らかになった。以上の結果はNgbによる細胞死の抑制とGDI活性の間に密接な関係があることを示しており、細胞死の抑制はNgbの持つGDI活性によって細胞内のシグナル伝達を制御することにより引き起こされていると考えられる。
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