研究概要 |
嫌気呼吸系マルチヘム型一酸化窒素還元酵素(cbb_3型NOR)の触媒サブユニットNorBは,酸素呼吸系の終末酸化酵素であるシトクロムc酸化酵素(CcO)の触媒サブユニットIと約20%の相同性がある。従ってNORとCcOは同様の触媒部位を持つが,NORがヘム-非ヘム鉄中心であるのに対し,CcOはヘム-銅中心と構造が異なりNORにはプロトンポンプ活性が無い。本研究では,NORへの変異導入によりプロトンポンプ分子進化過程を再現することを目標として,まずNORのヘムb_3-Fe_B複核中心を構成するFe_B配位残基に変異を導入した酵素を作成し,その性質を検討した。Fe_Bの配位残基と考えられる膜貫通ヘリックスVI上に存在するGlu190およびGlu194をそれぞれAlaに置換した変異体,Glu190Ala, Glu194Alaを大腸菌を用いて異種発現させた。培地組成および培養条件を検討し,変異体の分光学的解析を行ったが,NorCサブユニットのC型ヘムの含量が低く,ヘムb_3-Fe_B間の架橋構造が崩れていることが示唆されるなど,完全な鉄中心を持つ変異体の取得に至っていない。従って,Glu190, Glu194はNORの触媒部位形成に重要な残基であることが明らかである。引続き他のアミノ酸残基への置換を行い,ホロ酵素の調整を目指す。また,原株を用いた異種発現系のために作製したHalomonas halodenitrificansのNOR欠失変異株の性質を検討した。欠失変異株は脱窒により生成するNOを処理できないため,脱窒条件下でほとんど生育せず,NorBサブユニットのみを破壊したにもかかわらず,無細胞抽出液中にNorCサブユニットも検出されなかった。
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