研究概要 |
Wnt刺激によって細胞内のβ-catenin蛋白質が誘導され、その結果生じたTCF転写因子・β-catenin複合体によって、Wntの標的遺伝子が活性化される経路は、Canonical Wnt経路と呼ばれており、この経路では、1回膜貫通型蛋白LRP6と7回膜貫通型蛋白Frizzledからなる複合体が、機能的なWnt受容体として働いている。最近、LRP6の細胞内ドメインをbaitとしたYeast two hybrid screenにより新たなLRP6結合蛋白として、Growth factor receptor-bound protein 10 (Grb10)蛋白を同定した。元来Grb10蛋白は、活性化された受容体型チロシンキナーゼの細胞内ドメインに結合する分子として発見され、SH2, PHなど機能ドメインをもつ事から、アダプター分子と考えられていた。 Grb10のWnt経路に対する影響の解析を行う事によって、本年度得られた結果は以下の通りである。 1)293T細胞におけるLuciferase Reporter assayによれば、Grb10の強制発現は、Wnt3aにより誘導されたTCF依存性の転写活性を強く抑制したが、恒常的活性化型のβ-cateninの強制発現による転写活性化を全く抑制出来なかった。従ってGrb10の作用点は、明らかにβ-cateninより上流と考えられた。この結果に一致して、Grb10強制発現細胞では、対象細胞に比較して、Wnt3a刺激によるβ-cateninの蓄積は阻害された。 2)Grb10のSiRNA処理により内在性Grb10の発現量を30%にまで低下させた293T細胞では、Wnt3aにより誘導されたTCF依存性転写活性は、対象のLacZ SiRNA処理細胞の示す値の250%にまで亢進した。従って実際に内在性のGrb10がWntシグナル伝達経路を負に制御している事が確認された。
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