研究概要 |
第3世代の放射光源(高輝度光科学研究センターSPring-8)を利用した溶液中でのX線広角散乱法は,タンパク質などの階層構造と機能発現の関係を解明する鍵となるが,世界的に見ても上記の目的のために特化された測定周辺機器や解析法などは不十分である。本研究は,溶液X線広角散乱法の確立を目的として実施する。また,それらを基礎とする医療,創薬,バイオプロセス工学など応用研究の展開に資する。本研究の具体的な目的は,次の通りである。 1)溶液の放射光X線広角散乱測定のハイスループット化:放射光X線広角散乱測定に特化した溶液振動型自動試料交換機を設計、製作して,格段の測定のハイスループット化をおこない,タンパク質分散系の階層構造とその機能発現機構を明らかにするために基盤技術を確立する。 2)タンパク質の階層構造と構造転移,階層間の転移の同時性と協同性の解析:複数のタンパク質を選択し,フォールディング/アンフォールディング構造転移における各階層構造別の変化,階層構造間の転移の同時性や協同性を解析し,階層構造と構造転移との関係を明らかにする。 3)アミロイド転移、核形成、線維成長の全過程の観測と解析:タンパク質のアミロイド形成の全過程,α->β転移とクロスβ構造の出現[アミロイド核形成],クロスβ構造のスタッキング[アミロイド核重合と成長],超分子線形成に至る過程をX線広角散乱により高い統計精度で測定、解析して,その機構を明らかにする。 本年度は,上記項目の内,1)及び2)を中心に実施した。その結果,下記の成果を得た。 項目1)に関して:測定の効率化と放射線ダメージ回避のために,10個の試料を同時に測定可能な多連装型セルホルターと試料セルを作成した。それそれの試料溶液は測定中にポンプで往復流動できる。また,測定中の流動と撹拌を兼ねたギアを用いた新型セルも作成した。これらの装置を用いた実験と,装置改良は現在進行中である。 項目2),3)に関して:Sping-8を用いたapomyoglobinの構造相転移と観測し,温度上昇に伴うアミロイド形成の初期過程の観測と解析に成功した(学術論文発表済み)。また,生体膜モデル膜と変性タンパク質との相互作用に伴う構造変化の観測に成功した(学会発表)。その他,浸透圧をパラメーターとしたタンパク質の構造転移の測定と解析にも成功している(一部,学術論文発表済み)。
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