鞭毛運動の基礎はモーター蛋白質ダイニンによる微小管のすべり運動である。その滑り運動が波動運動に変換される機構はよくわかっていないが、ダイニンのもつ特殊な性質がその機構に関与している可能性が高い。本研究では、そのような性質を1分子レベルで検討するために、遺伝子工学的にダイニンサブユニットをビオチン化することで、分子の機能的固定、蛍光色素による可視化を行っている。本年度は、鞭毛に2種類存在する内腕と外腕ダイニンについてそれぞれ以下のような実験を行った。1)蛍光標識により可視化した外腕ダイニン1分子は、ATPの存在下に微小管上を約1マイクロメートルに渡って運動した。このことから、外腕ダイニンがProcessiveなモーターであることがはじめて明らかとなった。2)ビオチン標識した外腕ダイニンをアビジンを用いてガラスに機能的に固定し、そのモーター活性を調べたところ、これまでの非特異的固定法よりもモーター活性が高いことがわかった。外腕ダイニンはモーター活性がある3本の重鎖(αβγ)をもつが、さまざまクラミドモナス外腕ダイニン欠失変異株を利用して重鎖を2本もしくは1本しかもたないダイニンを作出し、それらとαβγの運動性を比較した。その結果、αβγよりもαβのほうが微小管を滑らせるスピードが速いことが判明した。この結果は、γ重鎖がダイニン外腕の微小管すべり運動を制御するような活性を持つことを示唆し、鞭毛運動の制御機構を考える上で重要であると考えられた。3)外腕と同様にダイニン内腕についても特異的な標識を行った。ダイニン内腕は重鎖を2本もつタイプ(双頭型)が1種類、1本もつタイプ(単頭型)が9種類が見出されている。単頭型の3種類について特異的な蛍光標識を行い、現在、外腕と同様な実験を行っている。
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