安定な可溶化が実現可能であることを以前の研究で明らかにした穏和な非イオン性界面活性剤TritonX-100を用いた、合成脂質膜リポソームへのバクテリオロドプシン(bR)再構成法を、いくつかの脂質組成からなる脂質膜リポソームを対象に検討した。その結果、界面活性剤の除去にバイオビーズを用いることにより、迅速なbR再構成が可能であることがわかった。本研究課題における研究項目の1つである、脂質組成の違いがbRの機能中問体の寿命におよぼす影響を調べるため、当初予定していた赤外領域の時間分解測定システムに加えて、新規導入した分光器と既存設備のレーザー等からなる可視領域のマイクロ秒過渡吸収測定システムを新たに構築した。この測定システムを用いて、dimyristoylphosphatidylcholine(DMPC)からなる脂質膜リポソームに再構成したbRの機能中間体の寿命を、5℃から35℃の温度領域で調べたところ、天然紫膜に比べて、20℃以下のゲル相ではいくつかの中間体、特にM以降の中間体において減衰が遅くなることがわかった。一方25℃以上の液晶相では、天然紫膜に類似したタイムスケールの光サイクルを示した。また、異なる寿命を持つ2つの分子種が続いて生じるM中間体においては、より遅い分子種の吸収極大波長が、天然紫膜に比べて10nm以上の大きなブルーシフトを示し、発色団レチナールとアポタンパク質の相互作用が弱くなっていることが示唆された。液晶相にあるDMPCリポソーム中では、bR分子間の相互作用が弱くなり、分子集合状態が顕著に変化することが知られており、上記の実験結果は、膜タンパク質の分子集合状態が機能発現メカニズムに大きな影響を与えることを示していると考えられる。
|