昨年度新たに構築した可視領域のマイクロ秒過渡吸収測定システムを用いて、いくつかの組成の異なる脂質膜に再構成したバクテリオロドプシン(bR)の機能中間体の寿命を主として調べた。昨年度の予備実験から興味深い結果が示されていたdimyristoylphosphatidylcholine (DMPC)からなる脂質膜リポソーム再構成試料に関して、詳細な実験を行ったところ、脂質二重膜のゲル-液晶転移に伴うM2中間体の著しい短波長シフトを観測した。M2中間体はプロトンポンプにおけるプロトンの放出と取り込みのスイッチングに関わる重要な中間体であり、ゲル-液晶転移によりbR分子からなる二次元結晶が融解することから、脂質膜の相挙動が膜タンパク質の集合状態、さらにプロトンポンプ機能の発現に大きく影響を与えることが明らかになった。また、M2中間体の著しい短波長シフトはレチナールポケット近傍の大きな環境変化を示しており、さらに高温で観測される光退色現象との関連性が示唆される。炭化水素鎖の長さの異なる脂質を用いた実験をさらに行い、光退色現象の観点からも詳細な解析を現在進めている。 さらに、短鎖リン脂質と長鎖リン脂質からなる混合脂質膜に再構成したバクテリオロドプシンについて、分光学的な方法を中心に検討を行った。その結果、円二色性スペクトルから、タンパク質の集合状態が単一の長鎖リン脂質再構成系とは異なることを示す実験結果が得られた。機能中間体の挙動については通常の再構成試料との間に顕著な違いが見られなかった。さらに詳細な実験を進め、総合的な考察を現在進めている。
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