アルツハイマー病アミロイドベータタンパク質に関して、アミロイド形成傾向性の高い領域を独自開発の予測プログラムを使用して抽出した結果、分子内ターン構造を形成しうる2つのベータストランドが42残基の分子中央部とC端側領域に存在することが推測された。またこれらストランドの組み合わせは複数の可能性が予想された。そこで、2つの7残基ストランドを有し、その間の4-5残基ループ部分をターン誘導性の2残基に変換した「ストランド-ターン-ストランド」型の分子を約50種類系統的に設計合成してアミロイド形成性を調べた。色素結合性等の解析結果を総合すると、合成したペプチドのうち特定の1種のみが分子内ターン構造に基づくと考えられる顕著なアミロイド性を示した。この結果は予測結果のひとつと一致し、これらストランド間で疎水性のアミノ酸残基側鎖間相互作用が効率的に実現していた。さらに正負荷電性の残基がストランド間で静電相互作用していることが予想された。これらの相互作用がアミロイド形成時の主要な相互作用である可能性が高く、見出した2つのストランド部分が全長配列においてもアミロイド形成時の幹構造になることが強く示唆された。加えて、蛍光性のチロシン残基を系統的に導入した20数種の変異体アミロイドベータタンパク質の分光学的解析から、予想されるアミロイドの幹構造部分に近接する領域においてチロシン残基への変異がアミロイド指向性の蛍光色素の結合量あるいは蛍光強度に影響を与えることを見出した。このことは上記の分子内ターン構造に基づくアミロイド構造モデルを支持するとともに、幹構造以外のコイル部分とループ部分がともにアミロイド線維に沿ったグループ壁を構成していることを示唆している。これらの結果は従来の報告モデルに比べより詳細な残基間の相互作用に関する知見を含んでおり、アミロイド構造解明に大きく貢献するものである。
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