高浸透圧やグルコース飢餓などの環境ストレスや、アルコール、局所麻酔剤や抗精神病薬などの麻痺を引き起こす臨床薬剤は、出芽酵母で翻訳開始やアクチン極性化を急速且つ強力に阻害する。これら臨床薬剤は高浸透圧と同様に細胞内Caの一過的上昇も引き起こすが、Ca上昇は阻害には関与していない。本研究はストレスと薬剤に共通する阻害機構を明らかにする事で、細胞レベルでのストレス応答機構だけでなく麻痺の機構も解明する事を目的とする。 出芽酵母のアクチン極性と細胞溶解能を用いて薬剤の強度と安全性を定量的に評価するシステムを構築し、種々の臨床薬剤を評価したところ、臨床での評価結果と相対的に一致する事がわかった。この事実は麻酔剤や抗精神病薬の強度と安全性を決定する細胞レベルでの作用機構が出芽酵母と動物で類似している事を示している。阻害薬剤の共通構造は界面活性能を持つ両親媒性構造であるが、遮断パターンの決定には疎水部でなく親水部の構造が関与していた。薬剤強度は疎水部の長さに指数比例するが限界もある事を見いだした。安全性には親水部の構造と疎水部の構造が複合的に関与し、リン脂質の配向を破壊しない構造が重要であると考えられる。さらに臨床薬剤と構造は異なるが類似の阻害作用を持ち、且つ安全性も高い新規薬剤もいくつか見いだした。以上の結果から出芽酵母を用いた薬剤の設計基盤を提供できると考えられる。
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