遺伝子発現において、転写制御因子を含む転写活性または抑制クロマチンドメインの分子構築と動態を明らかにすることを目的として、以下の項目について研究を行った。 1.出芽酵母におけるヒト由来ピストンH3バリアントの発現と酵母ミニ染色体の単離法の確立 出芽酵母ヒストンH3遺伝子座(HHT1、HHT2)に、ヒト由来H3.1、H3.2、H3.3のN末にHis6タグを付けた遺伝子を組み込み、各種ヒトH3バリアントを発現する酵母菌株(haploids、diploids)を作製した。いずれのヒトH3バリアントも酵母ミニ染色体にヌクレオソームとして取り込まれることが示された。さらに、これらのH3バリアント発現株およびHis6-H4発現株(19年度に作製)に、TRP1/ARS1誘導体プラスミドを導入して、ゲルクロマトグラフィーによるミニ染色体の単離精製法を検討した。 2.出芽酵母ゲノムにおけるクロマチンを介した転写制御機構 減数分裂初期遺伝子HOP1のプロモーター領域におけるヌクレオソームの配置と転写制御因子の結合をin vivoで解析した。その結果、Ume6によってリクルートされるIsw2クロマチンリモデリング複合体がヌクレオソームをポジショニングして、プロモーターのアクセッシビリティーを制限することが明らかになった。Ume6複合体による転写抑制には、Isw2によるヌクレオソームポジショニングとRpd3によるヒストン脱アセチル化との協調が重要な役割を果たしていることが示された。 一方では、誘導性遺伝子であるPHO5のmRNAのレベルとクロマチン構造との関係について解析した。その結果、転写の活性化と抑制は、それぞれヌクレオソーム形成の阻害と促進とに対応することが明らかになり、プロモーター領域におけるヌクレオソームの形成と排除のダイナミズムが転写制御において本質的な役割を担っていることが示された。
|