これまでの研究において、細胞膜損傷は細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を介して、微小管配向を変動させることを見出してきた。さらに、微小管配向を制御すると一般に考えられている微小管プラス端集積因子(+TIPs)のうち、EB1とAPC(adenomatous polyposis coli)のみが細胞膜損傷を契機として細胞内局在を変動させること、また他の+TIPsは細胞内カルシウムイオン濃度の上昇に反応しないことを明らかにしてきた。今年度は、細胞内カルシウムイオン濃度の上昇からAPCの細胞内局在変動に至るシグナル伝達系を解析した その結果、以下のことを見いだした。 1.APCの細胞内局在変動には膜損傷箇所からのカルシウムイオンの流入、およびそれによって活性化されるチロシンキナーゼが必要であった。 2.活性化されたチロシンキナーゼは更にGSK-3βを活性化し、APCと微小管との親和性を制御することで、APCの細胞内局在の変動を引き起こしていた。 3.細胞のコンフルエントなモノレイヤーに損傷を与えると、損傷近傍の細胞は細胞膜損傷を受けていた。そこで、チロシンキナーゼやGSK-3β活性を阻害し、膜損傷後のAPCの局在変動を阻害した条件で損傷を与えたところ、モノレイヤーに与えた損傷の修復が大幅に遅れた。 以上のことから、細胞膜損傷箇所からのCa^<2+>流入、及びそれに伴うGSK-3βの活性化によるAPCのドラスティックな局在変動が、微小管配向の変動の促進に重要であることが示唆された。
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