翻訳段階における遺伝子発現制御は、転写レベルでの遺伝子発現調節機構とならび、胚発生、生殖細胞の形成、細胞の極性形成、神経の可塑性の制御など、さまざまな生物種における種々の遺伝子の発現調節過程において、非常に重要な役割を果たすことが知られている。本申請研究では、hnRNP A3タンパク質の細胞質におけるmRNAの翻訳制御機構を明うかにすることを目的とし、hnRNP A3タンパク質のプロセシングボディーへの局在化、ならびに、hnRNP A3によるmRNA翻訳制御に関わる因子群の同定を目的として行なった。平成19年度は、hnRNP A3結合タンパク質の一つとして申請者が同定していたmRNA核外輸送受容体TapのパラログNXF7との相互作用、細胞内局在等に関して詳細に検討した。その結果、NXF7がプロセシングボディーに局在するためには、hnRNP A3との結合が必要であることを明らかにした。また、神経系の細胞に認められるRNA顆粒へのNXF7の局在化にもhnRNP A3との相互作用が必要であることを明らかにした。NXF7は翻訳中のポリリボソームに安定に結合するのに対し、細胞質におけるhnRNP A3の局在はプロセシングボディーのみに限局されることから、両者の相互作用は、翻訳中のポリリボソーム上で一過性に起こることが推察された。これらの結果に基づき、hnRNP A3は、核内で特定のmRNAに結合し、細胞質へ輸送され翻訳を受ける際にNXF7と会合し、RNA顆粒へ取り込まれるという翻訳装置上における特定のmRNA種の選別モデルを提唱した。
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