研究課題
本研究は、細胞浸潤を制御する基本的分子機構を明らかにし、どのような制御の破綻が癌細胞の常軌を逸した浸潤性をもたらすのかを解明することを目的としている。申請者は、これまでに、低分子量G蛋白質Arf6が浸潤性の高い乳癌細胞において正常乳腺細胞での高発現をしており、それらの浸潤活性に重要であること、浸潤におけるArf6のエフェクターがAMAP1であり、その発現も乳癌の浸潤形質や悪性度と良い相関を示すこと、さらに、AMAP1が浸潤活性に必須の複合体を形成すること、その中でAMAP1とcortactinとの結合インターフェースは特異な構造を示し優れた分子標的となることを例示して来た。本研究期間において、癌細胞の浸潤においてArf6を活性化するGEF(guanine nucleotide exchange factor)の同定を行った。浸潤性の高い乳癌細胞であるMDA-MB-231細胞をモデルとし解析を行った結果、この細胞株で発現しているArfGEFの中でGEP100の発現を抑制した時のみ、有意な浸潤活性の抑制が認められた。GEP100は、リガンドにより活性化されたEGFRに直接結合することによってArf6を活性化すること,また、GEP100とEGFRとの結合様式も明らかにした。MCF7など非浸潤的乳癌細胞では、GEP100、Arf6共に殆ど発現していない。MCF7細胞にGEP100の強制発現を試みたところ、Arf6との共発現においてのみ、EGF刺激依存的な浸潤性の誘導を見出した。病理学的解析も進め、GEP100は原発性乳管癌の約7割に発現が認められ、それらの悪性度の高いケースで、特にEGFRとの共発現が見られた。乳癌をはじめ様々な癌種において、EGFRが高発現しており、このことと癌の浸潤・転移形質との間に相関があることが知られている。しかし、EGFRを介した、癌浸潤に特異的なシグナル伝達経路があるか否かについては、不明のままであったが、申請者らの研究結果から、GEP100がEGFRを介したシグナル伝達経路と、乳癌の浸潤形質誘導に必要なArf6の活性化とを結び付ける特異的な、新規シグナル伝達経路の存在の可能性が示唆された。
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