細胞運動は、様々な生命活動で観察される現象であり、その分子メカニズムを明らかにすることは、形態形成過程や免疫応答などの正常な生命活動に加え、癌細胞の浸潤過程など様々な病気の過程を理解するうえでも重要であると考えられる。外界から刺激があると、細胞は刺激の方向を認識し、刺激の方向に移動できるように形態を変化させ、前後の極性を形成し、移動を開始する。この際、細胞内では、シグナル伝達、細胞骨格の再編、細胞内輸送、膜の再編など様々な変化が起こるが、これらの変化は協調的かつ統合的に起こっていると考えられている。近年、我々は、細胞内輸送に関わることが知られている低分子量Gタンパク質ARFに対するGAP の一つであるGIT2に注目し、研究を行ってきた。その結果、GIT2が、好中球の細胞運動に重要な働きをしていることを見出した。そこで本研究では、GIT2の上流分子であるARFに注目し、細胞運動時の極性形成におけるARFの役割を調べると共に、その際のARFの制御機構を明らかにすることで、細胞運動の分子メカニズムの解明に貢献したいと考えている。 本年度は、HL-60細胞を好中球様に分化させた細胞を用い、走化性に関与するARGEFの同定を試みた。ヒトには16種類のARF GEF が存在するが、HL-60細胞を好中球様に分化させた細胞では、その内の10種類のmRNAが検出された。発現が認められた10種類各々のsiRNAを用い、fMLPに対する走化性を調べた。その結果、複数のsiRNAにおいてfMLPに対する走化性の減少が認められたが、特に、GBF1に対するsiRNAによって走化性が著しく減少した。
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