出芽ホヤは2種類の間葉系幹細胞をもっている。一つは体細胞系列(S-)ヘモブラストで、多能性上皮や心組織に分化する。他方は生殖系列(G-)ヘモブラストで、生殖細胞とその付属細胞に分化する。これらのヘモブラストが単系統なのか、あるいは独立した2系統なのか、また、後者の場合、S-ヘモブラストとG-ヘモブラストに互換性があるか否かを明らかにすることが本研究の目的である。 第1に、我々が蓄積した群体ボヤ遺伝子情報から、ヘモブラストを特徴付けると思われる遺伝子の発現解析を行った。その結果、S-ヘモブラストはMyc、Piwi、ERK2を発現すること、G-ヘモブラストはVasa、Myc、Piwi、RACK1を発現することが明らかとなった。別途調製したNanosは、精巣で強く発現した。第2に、Vasa、Nanos、Myc、RACK1の機能をRNAi法によって調べた。Vasaをノックダウンすると、生殖腺が全く形成されず、siNanosは精子形成を阻害した。両者ともに、体細胞系列の細胞分化に影響は認められなかった。他方、siMycはS-ヘモブラストから多能性上皮への分化を抑制した。siRACK1は、個体の成長を抑制したが、どの組織を標的としたのかを特定するに至っていない。また、生殖腺への影響はまだ明らかでない。第3に、体細胞系列と生殖系列の分化誘導を試みた。単離した被嚢血管にBMPを顕微注入すると、S-ヘモブラストから多能性上皮への分化が著しく促進された。また、少数ではあるが、Vasa陽性細胞が血管中に出現した。Vasa陽性細胞は、S-ヘモブラストよりも約1.5倍大きかった。 以上の結果は、(1)群体ボヤの間葉系幹細胞がPiwiを発現していること、(2)Vasaによって特徴付けられる生殖系列は、Piwi陽性細胞集団のごく一部であることを示している。すなわち、S-ヘモブラストとG-ヘモブラストは独立した2系統であることが示唆された。20年度は、細胞標識と移植実験によって前記の推論を検証するとともに、両集団の互換性について調べる予定である。
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