研究概要 |
我々の口腔天井を構成する二次口蓋は,上顎隆起口腔側に小突起として生ずる口蓋板が水平方向に伸長し,正中で融合して出来る。本研究では,口蓋板の形成過程を理解するため,ヒトX染色体連鎖型口蓋裂の原因遺伝子である転写因子・Tbx22に注目し,ニワトリ胚を用いて解析を行っている。これまでの解析で,Tbx22は口蓋板原基と舌原基下部で発現することを確認している。 本年度は,Tbx22の機能を直接的に検討するため,Tbx22を異所的に発現させ,組織や器官の変化を調べた。Tbx22の全長をコードする遺伝子をトリレトロウィルスに組み込み,この組換えウィルスを正常発生時にはTbx22が発現しない上顎隆起の外側部や下顎隆起などに感染させて,Tbx22を異所的に発現させた。その結果,Tbx22を発現させた顔面隆起は,大きさが対照側に比べて明瞭に小さかった。また,上顎隆起外側部や下顎隆起から分化・形成される頬骨や下顎骨・メッケル軟骨は低形成となり,全く形成されない場合もあった。Tbx22を異所的に発現した細胞では増殖が抑制されており,これにより隆起の萎縮や,骨・軟骨分化の抑制が起こったと予想された。Tbx22発現細胞でのアポトーシスの増加は認められなかった。一方,Tbx22の異所的発現により,口蓋板状の構造が過剰に形成されることはなく,Tbx22は口蓋板形成を規定するdeterminantではないと考えられた。 Tbx22は,標的遺伝子の発現を抑制する「抑制型転写因子」であることが報告されており,本研究においても,上記操作により本来は強く発現するMsx-1などの発現低下を確認している。従って,Tbx22は標的遺伝子の発現を抑制して,顔面隆起を構成する細胞の増殖や分化を抑制(または阻害)し,正常な形態形成に関与していると考えられる。
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