研究概要 |
動物の発生において同じシグナル伝達因子が、胚の様々な領域で異なった組織形成に関与していることが数多く観察される。脊椎動物において神経系の前後軸に沿ったパターン形成には、Wnt,レチノイン酸およびFGFシグナルの濃度勾配が重要であると考えられている。ゼブラフィッシュにおいては、ホメオポックス遺伝子Cdx1a/4がFGF及びWntシグナルの下流で後方組織形成に必須の役割を果たしている。さらに、CdxはFGFやレチノイン酸に対する細胞の応答性を変化させることによって菱脳節の形成を抑制して胚の後方領域に後方神経(脊髄)を形成する。Cdxは、後方Hox遺伝子(Hoxb7a、Hoxb9aなど)のエンハンサー領域に作用して、その発現を誘導することにより後方神経のパターン形成に関与していた。この発現誘導はFGFシグナル依存的であり、その分子機構の詳細は明らかになっていないが、直接的あるいは間接的にCdxの転写活性を制御することが示唆された。現在、Cdxの転写制御機構を詳細に解析している。以上の研究成果は、胚におけるシグナル因子に対する組織応答性の違いを導く機構を解明することにより、様々な種類の細胞を創生を目指す再生医学のための基礎研究として重要であると考えられる。 また、ゼブラフィッシュにおける小脳の構造と発生の解剖学的、分子遺伝学的記載を行った。さらに神経形成に異常のあるゼブラフィッシュ変異体の探索した。小脳におけるプルキンエ細胞の樹状突起形成、顆粒細胞の形成に異常のある変異体を複数同定し、原因遺伝子をクローニングした。現在、これらの変異体と責任遺伝子の詳細な解析ならびに他の変異体の責任遺伝子のクローニングを行っている。これらの研究成果は、神経発生機構の解析ならびに神経疾患の原因解明に寄与すると考えられる。
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