研究概要 |
現在入手可能なグロビン構造のデータベースに基づいて現存しない古代生物のグロビン(祖先型グロビン)のアミノ酸配列を予測し(逆分子進化),実際に合成してそれらの構造・機能解析を行うことを目的として研究を行い,以下の成果を得た。 現存生物すなわち,羊膜類(爬虫類,鳥類,哺乳類),脊椎動物(魚類,爬虫類,鳥類,哺乳類)および,153残基の鎖長となるすべてのグロビンの既知のアミノ酸配列データから分子系統樹を作成し,それを基にして,2つの祖先型ミオグロビン(哺乳類祖先型"n80"および魚類祖先型"n182")のアミノ酸配列を推測した。 これらの2つの祖先型ミオグロビンをコードする人工遺伝子DNAを合成して,大腸菌内で発現させ,得られた祖先型ミオグロビンを抽出し,ゲルろ過やイオン交換クロマトグラフィーなどの方法で精製した。 2つの祖先型ミオグロビンの分子量は単量体に相当し,CD(円偏光二色性)測定から求めたαヘリックス含量や紫外・可視吸収スペクトルから,現存ミオグロビンと同等の立体構造をもつことが分かった。 これら2つの祖先型ミオグロビンの酸素解離曲線解析より,これらはBohr効果や協同作用を示さず,現存種のミオグロビンに比べて,酸素親和性が低く,それの温度依存性も小さい(酸素化反応熱の絶対値が小さい)ことが明らかにされた。 コンピュータを用いた分子モデリング解析により,これらの祖先型ミオグロビンと現存種ミオグロビンとの間の機能的差異を,幾つかのアミノ酸の違いをもとにして説明することを試みた。
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