エキソンシャッフリングと遺伝子重複の連動から生じた興味深い遺伝子PIPSLを見出した。この重複配列は、異なる2種類の遺伝子(リン脂質キナーゼとプロテアソームサブユニット)のRNAがスプライシング過程で連結し、L1の転移機構により転座した構造を持つ。両者は翻訳フレームを維持したまま融合し、誕生後およそ2000万年後の現在もそのORFを保持している。PIPSLは起源遺伝子と異なり精巣特異的に発現している。ユビキチン化タンパク質との結合活性を示し、塩基置換様式の特徴から、過去に強い正淘汰を経て親遺伝子から急速に分岐したと推定されている。 今回解析の対象とした霊長類は、ヒトと類人猿、Homo sapiens(ヒト)、Pan sp.(チンパンジー)、Gorilla sp.(ゴリラ)、Pongo sp.(オランウータン)、Family Hylobatitae(ギボン)、旧世界ザルのMacaca fascicularis(マカク)、Chlorocebus sp.(ミドリザル)、新世界ザルのAotus sp.(ヨザル)、Saguinus Oedipus(マーモセット)の計9種である。PCRによりPIPSL領域を増幅させ、塩基配列を決定した。その結果、ヒトと類人猿のゲノム中のみにPIPSL配列が存在することを確認した。また、PIPSL配列の保存性には種特異性が見られ、PIPSLは誕生後、特徴的な進化様式を経ていることが判明した。 種分化後のヒトPIPSLの分子進化様式を調査するために、日本人のゲノム50サンプルを用いて多型解析を行った。約3500bpのPIPSL遺伝子領域内に1箇所のSTRと9箇所のSNPを確認した。タンパク質コード領域のSNPは非同義置換が多く、またヘテロ接合度が高いことから、PIPSLはヒト(日本人)集団において何らかの自然淘汰を受けている可能性が考えられる。
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