今年度前半期は、佐賀県鳥栖市安永田遺跡出土の渡来系弥生人骨31体の試料から耳垢型決定遺伝子(ABCC11上のrs17822931)の解析を試みて、12体の耳垢型を導き出し、渡来系弥生人にも乾型だけではなく湿型も存在していることが示された。その成果の一部は、日本人類遺伝学会第52回大会で発表した。渡来系弥生人の耳垢の乾型、湿型頻度は、渡来系弥生人の原郷や移動の問題とも関連しており、その意義は大きい。 古人骨のDNA解析の作業過程において、起こりうる最大の問題はコンタミネーション(DNAの汚染)である。私たちは、作業環境や器具を清潔にすることはもちろん、ディスポーダブルの白衣、手袋、帽子、マスクの着用、DNA抽出とPCRの作業でピペットを別にすること、クリーンベンチあるいは隔離された部屋での作業、フィルターチップの使用などを講じており、コンタミネーションの原因をできるだけ排除している。しかしながら学会発表において、コンタミネーションの可能性も否定できないのではないかとの指摘を受け、新たに次のような基準を設けた。(1)耳垢型決定遺伝子を解析する前にミトコンドリアDNAが解析されている。解析の結果、スタッフおよび古人骨の整理等に携わった人と塩基配列が一致した場合には除外する。(2)古人骨の耳垢型遺伝子の特定には、少なくとも5回以上の解析結果から行う。現在、この基準の下に、安永田遺跡出土の弥生人骨試料を再度解析しているところである。来年度は渡来系弥生人骨の解析数を増やすとともに、縄文系弥生人の解析にも着手したい。
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