肝臓発生過程における組織形成の分子メカニズムを明らかにするために、胆管のチューブ構造の形成過程に注目して研究を行った。チューブ構造形成の分子メカニズムを明らかにするために、in vitroにおいて肝前駆細胞から胆管チューブ構造の誘導を試みた。様々な培養条件を検討した結果、肝前駆細胞株HPPLを単層培養した後にゲルを重層する方法(サンドウィッチ培養)を用いることによってネットワーク状のチューブ構造を誘導することに成功した。胎児肝臓での胆管形成の特徴は、(1)ductalplateと呼ばれる上皮細胞の学層構造からチューブ構造が誘導されることや、(2)細胞が増殖しないことがあげられる。サンドウィッチ培養でのチューブ構造形成は、これらの特徴を再現していた。次に、胆管構造形成に関係すると考えられるシグナル伝達系や転写因子の寄与を検討した。まずPI3kinase/Aktシグナル伝達系の役割を解析するために、PI3Kinaseの阻害剤やAktの阻害剤の存在下で培養を行った。これらの阻害剤の存在下では、チューブ構造が形成されなかった。また、転写因子HNFlbのドミナントネガティブ型を強制発現することで転写活性を阻害し、その効果を検討した。この場合もチューブ構造は形成されなかったが、特に管腔構造形成が阻害されていた。 本年度の研究では、生体内での胆管形態形成に類似したプロセス・メカニズムでチューブ形成が進行する培養形を確立することに成功した。今後この培養系を用いて、昨年度の研究においてすでに同定済みである胆管上皮細胞特異的な遺伝子の機能解析を進めて、肝臓発生過程における胆管の形成を制御する分子メカニズムや、胆管構造形成不全を引き起こす原因などを明らかにしていきたい。
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