研究概要 |
本研究は,自家不和合性を持つため育種における選抜効率が悪い普通ソバ(F.esculentum)に,近縁野生種(F.homotropicum)から自家和合性を導入した自家和合性普通ソバ系統を利用して,選抜効率の向上と,種間交配による有用形質の導入を組み合わせることにより,普通ソバの欠点を克服した画期的な新品種の開発を可能にする有用系統を育成することを目的とする. 今年度は,胚珠培養によりダッタンソバ(F.tataricum)と普通ソバの種間雑種を新たに作出し,その特性を明らかにした.この種間雑種F1は自家和合性を示し,F2種子を大量に得ることができた.これまで両種間の雑種は作出が困難で,屋外で旺盛な生育を示し,F2種子が得られたのは世界で初めてである.Ftは自家和合性の栽培種であり,種子の脱粒性が無く,ルチン含量が高いことから,F.eとF.tの種間雑種由来の自家和合性系統は,上記の野生種F.hとの種間雑種由来の自家和合性系統よりも有用性が高い.また,ダッタンソバは耐湿性,耐寒性に優れた宿根ソバ(F.cymosum)との交雑親和性が高いことから,この種間雑種は普通ソバにF.cの持つ有用特性を導入するための橋渡し植物としての利用が考えられる. さらにこの種間雑種と自家和合性普通ソバ系統との交配と胚珠培養により雑種を作出して,現在試験管内で育成中である.この雑種はF.eとF.hおよびF.t由来の遺伝子を併せ持つ3系種間雑種であり,F.hおよびF.t由来の自家和合性遺伝子を持つことから,F2世代以降における自家和合性の分離を調査することでソバ属全体における自家(不)和合性の遺伝様式を解明できる有用な研究材料を育成した.
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