イネは小胞子期に高温ストレスを受けると稔実率が低下する。その制御機構を明らかにする目的で、高温による遺伝子発現の変動と花粉の稔性や形態への影響を解析している。これまでの解析から、高温により著しく発現量の低下する遺伝子群を同定したので、それらの遺伝子のRNAiによるノックダウン解析を行い、花粉稔性に及ぼす影響を調べた。一群遺伝子の中で、CYP703をコードする遺伝子を発現抑制すると、花粉の発達が阻害され不稔となることが明らかになった。この遺伝子は、小胞子期の葯に特異的に発現し、高温により1日以内に発現量が検出限界程度まで低下する。また、シロイヌナズナの相同遺伝子の解析から、花粉の表層構造を構築するのに必要なスポロポレニンの合成に関与することがわかっている。この遺伝子の発現制御機構を調べる目的で、上流域のゲノム断片を単離し、レポーター解析を行っている。この遺伝子の組織特異的発現と高温応答性を司る制御領域を特定できれば、イネの高温不稔において主要な役割を果たす制御因子の解明につながると期待できる。 温度感受性雄性不稔系統PL12に関しては、出穂前20日頃から開花期までの期間、許容温度と制限温度とで栽培した変異体より葯の組織切片を作製し比較観察した。小胞子期の前期に形態的な変化が見られる個体が多いことがわかった。今後、この時期の遺伝子発現がどのように変化しているか等についても解析する予定である。また、原因遺伝子を単離するため、マッピングを進めている。PL12とインド型品種Dularを交配して得られたF2集団を展開して、候補領域の特定を進めている。現在、およそ400kbの領域にまで候補が絞られた。しかし、この領域内には、機能の推定できないORFが多数予測されており、原因遺伝子の特定にはさらにマッピングの精度を上げる必要がある。
|