研究概要 |
イネには,植物ホルモンのアブシジン酸を介した登熟優先度調節系が存在し,とくに低source/sink比条件下において,弱勢な穎果の初期成長を遅延させ,強勢な穎果を優先的に登熟させる働きをしていること,また,登熟優先度調節の強さには品種間差があり,弱い品種では弱勢な穎果の初期成長が遅延しにくく,強い品種では反対に遅延し易いことが知られている.本研究では,登熟優先度調節の強さが異なる2品種(系統)群(強:ササニシキ・コシヒカリ,弱:アキニシキ・92133)を用い,様々な炭水化物供給条件下で登熟優先度調節系が登熟にどのように影響するかを調査した. 出穂前遮光により,すべての品種で出穂前貯蔵炭水化物は減少した.また,出穂前貯蔵炭水化物含量に関係なく,登熟優先度調節の弱い品種が強い品種よりも登熟歩合は高かった.一方,出穂3週後に剪葉によりsource/sink比を低下させると,出穂前貯蔵炭水化物が多い場合には,登熟優先度調節の弱い品種が強い品種よりも登熟歩合は高かったが,貯蔵炭水化物が少ない場合には,反対の傾向が認められた.つまり,登熟期の炭水化物がある程度十分な場合は,登熟優先度調節が弱く,弱勢な穎果の初期成長が遅延しにくいという特性は登熟にプラスに働くが,炭水化物がある程度制限された場合は,マイナスに働くことが示唆され,登熟優先度調節系は不良環境下で強勢な穎果を優先的に子孫として残すための戦略機構と考えられた.
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