研究概要 |
秋田63号は千粒重の増加により、NPT(New Plant Type, IR65600-129-1-1-2)は一穂穎花数の増加によりsink capacityを高めた品種(系統)で、両者とも高い収量ポテンシャルを持つが、登熟が劣る。本研究ではこの登熟が劣る原因を明らかにすることを試みた。なお、一穂粒数が多く多収、さらに低source/sink比下でも弱勢な穎果のアブシジン酸(ABA)レベルが高く維持されるためにその初期成長が遅延しにくく、登熟も悪化しにくい系統92133(中国江蘇省)を比較に用いた。 source/sink比を穎果間引きにより増加、遮光により減少させても、全品種(系統)で強勢な穎果の初期成長は変化せず速いままであった。一方、とくに秋田63号とNPTでは、弱勢な穎果の初期成長が遅延、その一部は発育停止し、穂全体の登熟歩合は低かった。遮光はこれを助長したが、穎果間引きにより弱勢な穎果の初期成長は強勢な穎果程度に速くなり, 発育停止も減少した。各品種(系統)とも強勢な穎果では、発達初期のABA濃度には処理間差がなかったが、秋田63号やNPTの弱勢な穎果では、初期成長が遅延した対照区や遮光区で低く、穎果間引きで高い傾向が認められた。なお、穎果の発達初期における糖やサイトカイニンの濃度は穎果の初期成長とは関係なかった。また、穎果の直線的乾物重増加期におけるその増加速度は、強勢な穎果が弱勢な穎果よりも大きく、遮光処理で小さく、間引き処理で大きかったが、その時の穎果の糖濃度とは関係がなかった。つまり増加速度はその時利用できる炭水化物に左右されるのではなく、穎果の初期成長の速さに関係していた。以上より、高い収量ポテンシャルを持つ秋田63号やNPTにおいても, 他品種で明らかにされてきたように、弱勢な穎果の登熟不良には発達初期の低いABAレベルが関与していることが示唆された。
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