研究概要 |
雌性不稔イネを材料として平成19年度に実施した穂切除実験により,イネでは穂の有無にかかわらず,そのシンク機能が喪失した場合には,栄養成長期間(登熟期前半は主に程と葉鞘,後半は遅発分げつ)が光合成産物のシンクとして機能することで,物質生産の阻害はおこらないことを明らかにした. 平成20年度は,このように穂が機能しないため特異な物質生産・分配特性を持つ雌性不稔イネFS1の栽培法の検証を行った.特に登熟期後半の物質生産に寄与すると予想された遅発分げつの成長を促進するために,通常のイネ栽培では行わない登熟期間中の窒素追肥を実施して飼料イネ品種と比較栽培を行い,バイオマス生産特性を評価した. 雌性不稔イネの乾物生産および分配特性の解析により,窒素追肥により遅発分げつの成長量が増加し,CNコーダで測定た炭素および窒素の遅発分げつへの分配量も増加することが明らかになった.また,携帯型光合成蒸散測定装置を用いて穂後の上位葉身および遅発分げつ葉身の光合成速度の推移を測定し,窒素追肥により遅発分げつ葉身の光合成活性は葉面積とともに高く維持されることが明らかになった.遅発分げつは非構造性炭水化物のシンクとしても大きな割合を占めていた. 以上の栽培および分析によって,穂がシンクとして機能しない雌性不稔イネでは,出穂後の窒素追肥により遅発分げつの成長が促進され,物資生産への寄与が確認された.しかし,窒素追肥により最終的な乾物収量は増加する傾向はみられたが,標準施肥に比べて有意な差はなく,また,対照とした飼料イネ品種に比較して乾物収量は低いことから,雌性不稔イネのバイオマスを目的とした栽培利用に当たってはさらに検証が必要である.
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