研究概要 |
塩類集積地においても,降水量が多く地下水位が低い場合には,短期間ではあるが,土壌の塩分濃度は低下する.その期間の長さは基本的に気候条件に規定されるが,一般的に短いと言われている.作物のなかで,特に生育期間の短いソバはこうした土地に適した作物の一つと考えられるが,目下のところソバの耐塩性について詳細に検討した報告は見当たらない.そこで,本研究では,耐塩性の強い品種を育成することを最終目的として,ソバ2種の耐塩性の違いを明らかにすることを目的とした.材料は,普通ソバとダッタンソバを用いた.種子を砂土を充填した直径7.5cm高さ40cmの塩ビパイプ内に播種し,野外型の人工気象器内でダッタンソバが開花するまで長日条件下で栽培した.対照区は培養液のみで,処理区では培養液に最終のナトリウム濃度が80mMとなるよう塩化ナトリウムを混入した.塩水処理により,普通ソバとダッタンソバの個体成長速度は,それぞれ対照区の30%と9%に大きく低下した.この種間差異は,主に平均葉面積に基づくものと考えられた.塩処理により葉身の水ポテンシャルはダッタンソバのほうが大きく低下したことから,より浸透圧ストレスを受けたと考えられた.どちらのソバにおいても,塩水処理によってNa^+の含有率はすべての器官において増大した.普通ソバは根に多くのNa^+を蓄積し,ダッタンソバは地上部に多くのNa^+を蓄積した.ダッタンソバの茎と花のNa^+含有率は普通ソバに比べて高かった.塩処理により,ダッタンソバの導管液のNa^+は普通ソバより増加した.塩水処理により普通ソバの収量は3%に著しく低下し,ダッタンソバでは開花はしたが結実せず収量は皆無であった.以上のことから,普通ソバがダッタンソバに比べて耐塩性が強いのは,Naイオンの地上部への移行が小さく,吸水能と葉面成長を大きく減少させないためであると考えられる.
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