台風における耐倒伏性を高めるQTLを有すが、現在知られている耐倒伏性の3つのターゲット(草丈、強程性、支持力)がコシヒカリと差異がないコシヒカリとカサラス間の染色体部分置換系統(S1)を用いて、耐倒伏性を決定するメカニズムを解析した。台風の強風並びに雨により、コシヒカリでは第1節の茎が折れ曲がり、近傍の個体にもたれ掛かる。もたれ掛かられ耐えられなくなった個体は倒伏し、更に近傍の個体にもたれ掛かる。その結果、倒伏がドミノ状に発生していた。一方、S1では上部の折れ曲がり並びに倒伏が見られなかった。弾性応力の指標となるヤング率により、第1節の茎の強度を調べたところ、S1ではコシヒカリに比べ有意に高い値を示した。茎の太さ等の形態的特性に違いは見られなかった。茎の構成物質であるリグニン、セルロース並びにケイ酸含量はコシヒカリに比べS1では低い値を示した。茎に含まれるスターチ量は約5倍に増加していた。これらの結果から、S1では炭水化物が蓄積することにより、茎の強度が高まる。その結果、倒伏の原因となる茎の折れ曲がりが発生せず、耐倒伏性が向上すると考えられた。イネの耐倒伏性の向上に向けた育種では、短稈化が主要なターゲットとされてきた。近年、イネの籾藁を用いたバイオ燃料の生産が計画されている。短稈化は籾藁量を減少させるため、短稈化に換わる新たな耐倒伏性ターゲットが望まれている。コシヒカリと比較して、S1では収量特性及び米の品質に差異が見られないことから、S1の持つ耐倒伏性QTLは実用性が高いと考えられた。
|