イネの栽培地域では台風が発生しやすく、毎年多大な被害が引き起こされている。被害を軽減するために、台風に対する倒伏に耐性を持つ品種の作出が望まれている。一方で、耐性品種作出に向けた情報はほとんどなかった。本研究の開始時に私達は、台風における耐倒伏性を高めるQTL(Lrt5)を見出した。このローカスは、現在知られている耐倒伏性の3つのターゲット(草丈、強稈性、支持力)に影響を及ぼさず、全く新しい耐倒伏性に向けた機能を有すと考えられていた。本研究では、コシヒカリとカサラス間の染色体部分置換系統(S1)を用いて、Lrt5の持つ制御メカニズムを明らかにすること並びにLrt5の染色体上の領域を矮小化することを目的としている。昨年度までの解析により、S1では止葉下第一葉の老化の遅延により炭水化物が蓄積することで茎の強度が高まる。その結果、台風による倒伏の起因となる茎の折れ曲がりが発生せず、耐倒伏性が向上すると考えられた。また、表現型と一塩基多型マーカーを用いたBC1F2の遺伝子型の判別結果からLrt5の染色体上の領域をDNAマーカーS1919とS0575の間(約20cM)に絞り込んだ。 本年度は、Lrt5の領域を更に狭めることを目的に研究を行った。通常イネ等の作物における遺伝子型判別には、SSRやCAPSマーカーが用いられてきたが、PCR後に泳動を行う必要が有り、多くのサンプルを判別するには適していない。加えてマーカーの設定に自由度が低い。Lrt5の領域には、適したSSRやCAPSマーカーを設定することが困難であり異なる方法により遺伝子型判別を行う必要が有った。研究の第一歩として、SNPsをマーカーにした判別方法の確立を試みた。アリル特的PCRの原理の基、イネに最適なプライマー設定の方法並びに泳動せずに判別する方法を確立した。この方法(ASParray)は、汎用度が高いことに加え運営コストも安く、利用可能性が高い。確立した方法による遺伝子型判別と止葉下第一葉の老化による表現型解析を用いて、Lrt5の領域の蟻小化を4.5cMまで媛小化した。
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