| 研究概要 |
比較的短い高温処理によって発現が誘導される熱ショックタンパク質は同定されているが,それよりも長い時間にわたる高温ストレスによる植物の枯死を制御する分子機構については未解明である。夏においてシンビジウムの若芽は高温により枯死するため,シンビジウムの生産者は標高1000メートル程度の涼しい場所へ植物を移すことにより枯死を避ける。これを山上げ栽培といい,生産者にとって重労働である。シンビジウムの若芽が高温による枯死する時にCyNAC1遺伝子の発現が顕著に高まるが,一方で,高温に耐性を示すシンビジウム変異体(nhn;nonhightemperature-inducednecrosis)においては高温によってこの遺伝子の発現が高まらない。CyNAC1遺伝子は転写因子をコードすると考えられ,シンビジウムの若芽の高温による枯死の過程で種々の遺伝子発現の制御と枯死の制御に関わっていると考えられる。シンビジウムCyNAC1遺伝子は高温ストレスによるシンビジウム花芽の枯死を促進する形で制御しているのではないかと思われたことから,CyNAC1遺伝子を過剰発現させた形質転換トマトを作出したところ,このトマトは非形質転換トマトに比べて著しい生育阻害が観察され,CyNAC1遺伝子の発現が植物の生育に悪い影響を及ぼすことが明らかとなった。高温ストレスによるシンビジウム花芽の枯死を制御する遺伝子を同定するために,ディファレンシャル・ディスプレイ法により野生株のシンビジウム花芽の高温ストレスによる枯死の過程で遺伝子発現が増減し,また高温耐性変異株(nhn)とは異なる発現様式を示す種々の遺伝子断片を単離した。
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