本研究では、細胞壁強度の調節によるバラの切り花品質の向上をめざし、細胞壁の緩みとバラ花弁細胞の肥大成長の関係を明らかにすることを目的とした。これまでの報告で、トマトの頂端分裂組織では「細胞壁の緩み」が葉の原基形成の引き金になっていることが分かっている。その頂端分裂組織には、細胞壁関連のタンパク質として「エクスパンシン」や「エンド型キシログルカン転移酵素/加水分解酵素(XTH)」の存在が確認されている。これらタンパク質・酵素の働きの解明を通して、細胞壁の緩みと花弁肥大成長との関係を詳細に明らかにすることを目指してきた。本年度は、XTHの特異的な阻害剤であると推定されているフコシルラクトースがバラ花弁におけるXTH遺伝子の発現を制御している可能性を見出した。しかし、フコシルラクトースは今回の実験では切りバラ花弁成長そのものは制御できなかった。このことは今後の課題である。一方、遺伝子組換えによる機能解析実験は、バラは遺伝子組み換え作出が困難であるため、遺伝子組み換えが可能な花卉としてトルコギキョウを用いた。導入遺伝子としてエクスパンシンやXTHをターゲットとしたRNAiベクターを用いて、アグロバクテリウム法により感染させ、現在選抜段階にある。残念ながら研究期間内には開花させるまでは生育に至らなかったが、実際に植物体を作製できたことは大きな進展であり、今後の解析のための重要な材料を提供できたといえる。
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