研究概要 |
植物はウイルスなどの病原に対して特異的な抵抗性遺伝子を進化させ,過敏感反応(HR)を誘導して病原を初期感染部位に封じ込める機構を獲得してきた.HRに伴う細胞死と病原封じ込め機構の関連性は明らかになっていないが,我々は,病原が感染した部位でタイミングよく細胞死を誘導すれば,抵抗性遺伝子をもたない植物においても病原を封じ込めることができるのではないかと期待している.本研究では,抵抗性遺伝子Nをもつタバコにタバコモザイクウイルス(TMV)が感染した際におこる細胞死誘導をモデルシステムとして,過剰発現することにより人為的に植物に細胞死を誘導することができるエチレン応答性の転写抑制因子遺伝子ERF3に着目して,(1)細胞死誘導情報伝達経路の解析と(2)細胞死誘導によるウイルス封じ込めの解析の両面から研究を行い,本年度は以下の知見を得た.(1)N遺伝子からの細胞死誘導情報伝達経路に含まれることが知られているSIPKとWRKY1の両遺伝子を用い,その共発現により誘導される細胞死に対して,ドミナントネガティブ型ERF3を利用したERF3の機能抑制の影響を調べた結果,N遺伝子を介した細胞死情報伝達経路にERF3が関与することが示唆された.(2)細胞死誘導遺伝子としてERF3とSIPKを導入したトマトモザイクウイルス由来の組換えウイルスを,抵抗性遺伝子Nをもたないタバコ及びNicotiana benthamianaに接種することにより,病原側に細胞死誘導遺伝子を組み込んだ場合の病原封じ込め効果について解析した結果,接種した個体のすべての接種葉で壊死斑が観察され,多くの個体においてウイルスは局所に封じ込められたことから,細胞死誘導遺伝子をウイルスの局所封じ込めに利用できる可能性が示唆された.今後は,本研究で得られた知見をウイルス抵抗性植物作出のための新しい技術開発に活用していきたい.
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