研究概要 |
これまでにイタドリに特異的かつ強い病原性を示す斑点病菌(Mycosphaerella polygoni-cuspidati)が,防除素材として有望であることを明らかにした.一方,本菌の子嚢胞子形成がin vivoで認められないことから,今回,菌糸体を効果的な接種源として利用する場合の条件として,葉齢,湿室(RH100%)保持温度・時間,および温室維持温度について検討した.接種した植物体を5, 35℃で48時間あるいは25℃で6時間未満,湿室に保持した場合,病徴は全く形成されなかった.これに対して,展開7-9日目の葉に斑点病菌を接種し,湿室に15-20℃で32-48時間静置後,空調温室において19-21℃に維持することにより,高い発病率および発病度が得られることが明らかになった.以上より,これらの諸条件および気象データを照合すると,英国の野外における本菌の最適な感染拡大時期は7-8月頃であることが示唆された.また、長崎県イタドリ群落においてイタドリ斑点病菌と生態的挙動が密接に関連する同属の新種M. shimabarensisについて、斑点病菌との相互関係を交叉接種実験により検討した。M. shimabarensisを予めイタドリ葉に前接種することにより、斑点病の病徴進展が著しく促進され、本内生菌の生物的防除補助素材としての利用の可能性が示唆された。一方、2009年7月、英国環境・食料・農村地域省は、これまでの我々との共同研究の成果に基づき、斑点病菌に先立ち高い宿主特異性を有する食植性昆虫であるイタドリマダラキジラミを野外に放飼する方針を発表した。導入が実施されれば、外来性天敵による雑草の生物的防除の歴史において欧州初の事例となる。しかしながら我々の本邦における野外調査では、本導入予定天敵によりイタドリの生育が抑制される現象は一地域のみでしか認められていない。そのため導入昆虫が英国内で効果的に生物的防除機能が発現されないことが懸念される。この場合の対策として、斑点病菌の導入を検討している。そこで現在、イタドリマダラキジラミが斑点病菌あるいは内生菌の胞子拡散としてのベクターとなりうるかについて実験を展開しているところである。今後は、導入予定昆虫、斑点病菌並びに内生菌の3者間の相互関係について情報の蓄積を重ねることにより、異種生物種を利用した次世代型の効果的な難防除外来性雑草の伝統的生物的防除法開発へと展開を図る予定である。
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