高次寄生蜂Dendrocerus carpenteriは、アブラムシの一次寄生蜂に寄生する高次寄生蜂である。本種は既に寄生された寄主(既寄生寄主)を識別して産卵を回避する能力を持つ。産卵回避は先に寄生した高次寄生蜂が産卵時にマミー表面(寄主が入ったアブラムシの表皮)上に塗布したマーキング物質を利用して行われる。D. carpenteriは一次寄生蜂によるアブラムシの個体数抑制を阻害する要因であるが、このマーキング物質を用いてD. carpenteriの産卵行動を撹乱できる可能性がある。そこで本研究では、マーキング物質の抽出物から活性画分を分離し、その化学的特性の評価を行った。 D. carpenteriが既寄生寄主の識別に用いるマーキング物質をメタノールで抽出し、高速液体クロマトグラフィーによって分画した。7つの画分に対して活性評価する実験を行ったところ、マーキング物質は触角での確認なしで感知できる揮発性の物質と、触角で確認しなければ感知することのできない非揮発性の物質の少なくとも2種類以上の物質から構成されていることが明らかとなった。また、マーキング物質には産卵回避行動を引き起こす物質だけでなく、産卵を促すような何らかの物質も含まれることが示唆された。これらの物質はいずれもD. carpenteriの産卵行動の撹乱に利用できる可能性があり、そのためには化学的特性を今後さらに詳しく調べる必要がある。
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