研究概要 |
これまでの研究によって卵吸収に伴うタンパク質分解の場としてろ胞細胞が重要であり、そこでシステインプロテアーゼ型のタンパク質分解酵素が作用することにより卵黄タンパク質などの分解が起こると推定された(Kotaki, 2005)。さらに卵巣抽出物ばかりでなく卵抽出物にもタンパク質分解活性が認められた。これらのほかいくつかの予備実験の結果に基づいて、幼若ホルモンの体液中の濃度低下を引き金に、卵内に含まれるタンパク質分解酵素がろ胞細胞にとりこまれ、それが活性化されてビテロジェニンなどのタンパク質を分解するのであろうという作業仮説を設定した。平成21年度は、卵吸収に関与するタンパク質分解酵素の局在解析を進めるため、カゼイン添加アクリルアミドゲルを用いたザイモグラフィーを実施した。卵巣や卵の抽出物をこの方法で分析したところ、ゲル上でカゼイン分解活性を示すバンドが1本認められた。ゲル上のバンドの位置は、ふ化直前の卵やふ化幼虫の抽出物で移動度が増大した以外、ほぼ一定であった。このことから、卵吸収と胚子発育の両者における卵黄の分解におなじ酵素が使われるが、酵素の活性化の機構に両者で差があることが示唆された。酵素の活性化には、オルガネラの酸性化が関与すると予測ている。そこで酸性化に寄与すると考えられるATP分解酵素の活性を測定したが、卵吸収の誘導に伴う活性の上昇は観察されなかった。絶食によって卵吸収が誘導された個体に対する幼若ホルモン処理、ならびに絶食開始時に、幼若ホルモンを生産するアラタ体と脳との間の神経連絡を切断する処理を行うことによって、絶食下でも幼若ホルモンが存在すれば卵巣発育が維持されること、および絶食による幼若ホルモン濃度の低下は、神経支配を介した脳による幼若ホルモン生合成の抑制によってもたらされることが示された。
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