研究概要 |
シトクロムP450モノオキゲナーゼ(P450)は,昆虫生理活性物質と外来性毒物質の代謝を担う酵素である。その過剰発現は,多様な殺虫剤化合物に対する解毒活性亢進をもたらし,殺虫剤抵抗性の要因となっている。しかし,各P450分子種の各種殺虫剤に関する触媒作用とその過剰発現をもたらす遺伝的変異については,はほとんど未解明である。ネッタイシマカJPP系統の終齢幼虫は,作用点の低感受性とP450の活性亢進が主要因となり,ピレスロイド系殺虫剤であるペルメトリンに関し,感受性系統(OGS)の蚊に対して10^3レベルの抵抗性を示すが,成虫期には抵抗性比が10^1レベルに低下した。この低下はP450解毒機構の成虫期における消失によるものであることを,P450の阻害剤を用いた共力試験で明らかにした。JPP系統におけるCYP9M10とCYP4H34の二つのP450遺伝子の終齢幼虫期における転写量は,OGS蚊に比べ,それぞれ,約300倍と17倍あることが示されていたが,いずれの遺伝子もJPP系統の蛹期と成虫期では発現していないことを定量PCRで示し,両遺伝子は発育ステージに依存して発現調節を受けることを明らかにした。両系統を用いた戻し交配実験を行い,両系統,そのF_1,およびF_1の戻し交配子孫を用い,CYP9M10の転写レベル,遺伝子量,および両系統で異なるP450コード配列のハプロタイプに関する遺伝子型を調べ,次のことを明らかにした。i)CYP9M10の過剰発現は,約6倍の遺伝子増幅と約50倍と推定される転写活性の増大という二つの要因の相乗効果でもたらされている。ii)増幅したP450遺伝子は互いに強く連鎖している。iii)転写活性の増大に関する突然変異は,半優性の効果およびシス作動性を示す。これらの結果から,JPP蚊でCYP9M10遺伝子の転写活性が増大する要因は,転写調節領域に生じた突然変異によるものと推定された。
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