本研究では、地域や土壌条件によって特定のダイズ根粒菌が優占するメカニズムを明らかにすることを最終目的として実験を行った。まず、根粒菌の温度適応性を検討するために、温度による増殖の程度を確認した。その結果、菌株間で温度による増殖の差が認められた。特に高温(35.℃)培養では南で優占している根粒菌のみの増殖を確認した。次に、各種Rj遺伝子型ダイズ栽培で温度条件を変化させた系において、感染根粒菌の群集構造をITS領域のPCR-RFLP法で調査し、数理生態学的解析を行った。その結果、栽培温度を高くすると南で優占している菌株の、温度を低くすると北で優占している菌株の根粒占有率が高くなることを見いだした。アルカリ土壌への適応性に関して、B. Japonicum USDA 110株のゲノム配列で確認された3種のNa/Hアンチポーター(nha)のアルカリ環境下での役割について解析を行った。その結果、Bradyrhizobrum属ダイズ根粒菌はnha遺伝子を保有し、アルカリ環境下でnha遺伝子の高発現を示した。このことよりnha遺伝子がアルカリ環境適応性の機能遺伝子である可能性が示唆された。さらに、ダイズ根粒菌の外来遺伝子の獲得機構を解析するため、GFPトランスポゾンをマーカー遺伝子として、二親接合法およびハイドロゲル曝露法の2法によってGFP形質の獲得を指標にして検討した。その結果、酸性-中性土壌で優占している根粒菌は菌同士の接合によって外来遺伝子を獲得し、アルカリ性土壌で優占している根粒菌は無生物的な粘土鉱物との摩擦によって外来遺伝子の獲得を起こしていることが推察された。以上の結果より、根粒菌は外来遺伝子を取り込むことにより、様々な環境適応性を獲得したことが示唆され、根粒菌の土着化・優占化に関与する環境因子の一部は、温度とpHであることが明らかとなった。
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