北方のツンドラータイガ生態系は巨大な炭素リザーバーとして存在しており、土壌での蓄積が大きい。土壌炭素の最も重要な給源は、低地温を反映して厚く堆積したO層であり、O層から供給される種々の形態の有機態炭素が土壌と相互作用することによって土壌への長期炭素固定を可能にしていると考えられる。同生態系のO層の特性は、永久凍土分布の影響を受けると同時に土壌炭素の分布・動態を支配していると考えられる。そこで、本研究では異なる永久凍土分布がみられるシベリアにおいて、O層を東西のトランセクトに沿って採取し、それらの特性について炭素固定の側面から検討することを目的とした。 研究対象地は不連続永久凍土が分布するIgarka、連続永久凍土が分布するTuraおよび東に位置するYakutskとした。植生は西のIgarkaがトウヒの占有割合が高いブラックタイガであり、TuraとYakutskはカラマツを主体とするライトタイガである。O層を構成するコケ類はIgarkaでは多様であったのに対し、TuraおよびYakutskでは貧相であった。O層の全炭素および全窒素量は被覆植生によって異なり、地衣類が主体のO層では窒素含量が極端に低く、高いC/N比を示した。しかし、分解が進行したOa層では構成植生および地点間の相違は明瞭ではなかった。一方、O層から水浸出で得られる水溶性有機態炭素は地点間で異なり、連続永久凍土を有するカラマツ林下のO層で高く、その割合において疎水性の構成炭素種が多かった。このことは、O層から供給される溶存有機物量が多く、且つ鉱質土壌に蓄積しやすい可能性を示唆しており、実際の鉱質土壌中の炭素量の分布に一致するものと考えられた。一方、O層の腐植組成では、抽出腐植炭素量はTuraで最も低く、Yakutskで高かった。同時に腐植酸割合がTuraで高く、Yakutskで低かった。これはO層の乾燥に伴う、分解程度を反映したものと考えられた。以上、O層が有する腐植や水溶性有機物は異なる永久凍土分布を反映していると考えられた。
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