3-ヒドロキシアスパラギン酸(HO-Asp)はアスパラギン酸のOHアナログであり、天然界ではペプチド性抗生物質の構成成分などとして見いだされる。分子中に2個の不斉炭素を有し、4つの光学異性体が存在する。近年では神経細胞の興奮性グルタミン酸トランスポーターの特異的阻害剤として注目されている。 HO-Aspを単一炭素源としてスクリーニングした土壌細菌Pseudomonas sp.T62より、HO-Aspデヒドラクーゼを取得した。本酵素はL-スレオ体のHO-Aspに特異的に作用し、HO-Asp分解のための酵素であると考えられた。本酵素をコードする遺伝子をクローニングし、アミノ酸配列を解析した結果、Saccharomyces cerevisiaeのYKL218C遺伝子産物(旧称:セリンラセマーゼホモログ)、ヒト・マウスのセリンラセマーゼ、アカガイのアスパラギン酸ラセマーゼなどと相同性を示した。S.cerevisiaeの酵素もL-スレオ体のHO-Aspに特異的であり、セリンラセマーゼ活性は検出されなかった。 次にD-スレオ体のHO-Aspを基質としてスクリーニングを行い、Delftia属細菌からD-スレオ-HO-Aspデヒドラターゼを取得した。本酵素の立体選択性は甘く、D-スレオ体およびL-エリスロ体のHO-Aspに対して高活性を示したが、L-スレオ体に対しても活性を示した。本酵素はD-スレオ-HO-Aspに対して活性を示すデヒドラターゼの初めての例である。N末端アミノ酸配列より、本酵素はゲノム解析の行われたDelftia acidovorans SPH-1株のPutative Alanine Racemaseと同一、もしくは極めて類似の酵素と考えられた。
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